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東京高等裁判所 昭和34年(ウ)41号 決定

申立人 田中幸次郎 外四三名

被申立人 帝都高速度交通営団

主文

本件申請を却下する。

申請費用は申請人らの負担とする。

理由

原判決を見るに、原審は債務者ら(申請人ら)の疎明として、書証の外証人遠藤喜重外五人、債務者殿生文男(第一、二回)外十四名の人証を取り調べ、債務者らの主張並びに疎明方法を詳細に取り調べた上で、債務者らの本件係争土地の占有は何んらの権原に基かざる不法のものであることが明らかであると断じ、債権者が債務者等に対して建物収去、土地明渡を求めることの緊急の必要を認定し債務者らの不法占拠のため、債権者(被申請人)の蒙る損害並びに一般公衆の蒙る利便の喪失はまことに異状にして回復し難いものあると判断し、本件仮処分申請を認容したものであることが明らかである。

およそ仮処分判決に対して控訴が提起された場合、執行停止決定をなし得ないことを原則とするが、債権者の終局的満足を得せしめることを内容とする仮処分判決に対しては、例外的に民事訴訟法第五百十二条を準用してその執行停止を求め得るものであり、本件は正にその場合に該当する。

そして同条の解釈については、執行停止申請のある限り裁判所はつねにその決定をなすべくとの見解が存在し、特に昭和二十九年法律第百二十七号による同条の改正後、この見解が有力に主張されているのである。

しかしながらこのような見解には賛し得ない。民事訴訟法第五百十二条の場合においては、裁判所は一応控訴の理由があると認められるか否か、並びに執行停止によつて蒙るべき債権者の損害の程度等を参酌して自由なる判断に従つて、執行停止決定をなすか否かを決すべきものであり、本件の如き仮処分判決に対する控訴の場合には、執行停止によつて蒙るべき債権者の損害と執行によつて蒙るべき債務者の損害とを比較対照すべく、特に債権者の企業が公共性を有する以上、執行停止によつて一般公衆の蒙るべき損害も亦、債権者の損害のうちに含まれるものとして、これを参酌して決すべきものである。そして今この見地に立つて本件を見るに、執行停止決定をなさないことが適当であると考えられる。

よつて本件執行停止命令の申請はこれを却下すべく、申請費用は申請人等の負担とし、主文のとおり決定する。

(裁判官 松田二郎 猪俣幸一 沖野威)

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